6/19に県外またぎの移動も緩和になって、密にならなそうなアウトドアとして、新たに登山をやってみようかなという方もいらっしゃると思います。私はもうしばらく登山は様子見しようかなと思っておりますが、自分の考え方を整理する意味も含め、山に入るにあたっての心得、私の計画の立て方について書いてみたいと思います。とは言っても登山始めて8年程度のまだまだ若輩者ではあるのですが、これから始める方の参考になればと思います。
(1) 山に入るにあたっての心得について
いきなりたいそうなお題目ですが、山では何かしらの事故が死に繋がるリスクもある場所ですので、そういうリスクを避けながら山を楽しむための、基本的な考え方を持っておくことは大切だと思います。自分はまず、山に対しては「自然への畏怖」を根底に感じるようにしております。登山をやられる方はこのあたりを感じている人は多いと思いますが、登山口から登山道に入り、先に進んでいくほど自然に包まれて清々しい気持ちになると共に、倒木や増水や土砂崩れの跡、急な天候変化や強風、ちょっとした道迷い時に遭遇する崖、暗くなって来た時の不安感や夜に聞こえる獣の鳴き声など。そして何より、そこで何かトラブルがあった際に救急車は呼べない、携帯も通じるかは分からないという環境下である状況は、「人間が自然の中に入らせて頂く」状態であるという認識になります。これは、いくら自分が気をつけていようが、自然の気まぐれで人間1人なんていかようにでもできちゃう、ということだと思います。
そもそも山って、人の生活を支えてくれている存在でもありますよね。登山を初めたころに思うものの1つに、なぜ稜線に近いところまで登っているのに、これだけの水量が沢に流れてるんだろう? ということがあると思います。飛行機から利尻山を見たときの写真を見ればわかると思いますが、山って空気が通る際に冷やされ水蒸気となって雲となって、それが山に雨や雪をもたらし自然のダムになり、下流域の人々の豊富な水を供給してくれる存在でもあります。日本が水資源に困らないのは全国にこのような山が多くあること、またそこに湿った空気を運ぶための海に囲まれていることが大きいと思います。豪雪地帯があるのもその条件が揃っているからですよね。

話が少々飛びましたが、この「自然への畏怖」が根底にあると、計画の立て方や、山に行くか行かないかの判断、山に入ってからの判断や対処にも、なるべくリスクを減らせる選択ができると思います。
さらに余談ではありますが、実際に山では、「神様がいるんじゃないか」と思わせる体験をすることがあります。晩秋の奥穂岳で、ちょっと小雪がちらついてるけど頂上まであと少しだからと向かおうかと思ったところで、強冷風が吹き行くのを思いとどまったり、利尻山の下りで暑さで相当やられたところで、急にガスとともに涼しい風に包まれたり。時に注意を促してくれたり、助けてくれたり、そんな風に見守られることもある。そんな存在に感じます。
(2) 山での天候変化について
登山ではいろんなリスクがありますが、自分がかなり注意を払っているものは「天候変化」です。これは一般的にも上位に来るものなはず。自分も含めサラリーマンなどは登山の日程を土日や連休の限られた日程にセットせざるを得ないですが、まずこの日程で天候がどうなるか?に一番注意を払います。雨が降るなら当然道の状態も悪くなるし、風とセットになると体温が奪われ低体温症の危険性も高くなります。また落雷などは、特に稜線を歩くようなところでは結構致命的なリスクになります。ま、なにより天候が悪いと景色もろくに見れませんよね。ですので、行く予定を立てた週末の天気は数日前から入念にチェックします。
ただ、山の場合は普通の町の天気予報ではなかなか読み取るのが難しいです。例えば北アルプスの天気を、長野側の天気で判断するのか、日本海側の天気で判断するのか、など。私の場合は、Mountain Weather Forecastsのサイトと、SCWというサイトを見るのと、WeatherNewsの予想天気図や、気象庁の天気図を見て判断するようにしています。天気図は見方が分からないかと思いますが、私は猪熊隆之さん著の「山の天気リスクマネジメント」を照らし合わせながら、危険な気圧配置かどうかを見定めるようにしています。よくある間違いとして、一般知識では「台風一過」というと抜けるような晴れが広がるイメージですが、山では決してそう限りません。山域と等圧線の残り方によって、むしろ危険な場合もあります。私も台風通過後だからと決行した山行で、南アルプスの甲斐駒ヶ岳や塩見岳、東北の飯豊山脈など、風や雨に巻き込まれる体験が何度かありました。
天気により決行するか否かの最終判断は、例えば土日に泊まりの登山に行く場合は、木曜日に最終判断をします。これは、気象庁のもそうですが精度の高い予想天気図が出るのが48時間前なので、ここでガラリと予想が変わることもあり、たいていはこの木曜日中に決行判断をするようにしています。
ま、ここまで注意を払っていても山行中に雨に降られたりすることはあります。それだけ山の天気は読みにくいもの。ですので、山頂までの往復2時間程度だからレインウェアや防寒具やツェルトはいらないや、ということではなく、多少嵩張ってもこれらは必ず持っていくようにしています。実際、中央アルプスの駒ヶ岳山荘のテント場で突然の豪雨に見舞われたり、奥秩父の飛龍山で晴れていたのに、将監小屋に戻る途中で天候急変して雪混じりのヒョウに降られたりと、天候の急変には結構出会います。平地の常識が通じないポイントですので気をつけましょう。


(3) 登山計画の立て方
登山は自分の感覚では、計画で7割くらいは成否が決まると思います。というのも、登山って例えるなら月面に有人飛行するようなもので、一度飛び立つと、あとから何かを調達するとか、修理するとかもなかなか出来ないし、計画が杜撰だと時間通りに目的の場所まで着かないし、まかり間違うと帰ってこれない、事故に遭遇することにも繋がりかねないものです。ですので、その山域の特徴や、同行者の力量、天候変化の読みを考慮し、計画を立てることが重要です。
計画を立てる上で一番大事なのは、よく本にも書かれていますが、その登山の目的が何か?です。「頂上を目指す」のか「テント泊でゆっくりする」なのか。自分の場合は「写真撮影とトレッキング」です。山では天候変化などで、判断が必要となる場面が時折あります。その際に、多少リスクがあっても山頂まで行くのか、行かないのかなど。自分は山頂を踏むことはマストでは無いので、基本的には無理はしない選択肢になります。逆に、百名山を全て制覇するのだ!という百名山ハンターの方は、とにかく最短でも山頂を踏む、のが目的となりますので、小屋でゆっくり休憩したいけど、天候崩れるからくつろぐのは省いてさっさと標識タッチして最速で戻ろう、等になるかと思います。この目的は、登山計画書にもたいてい書く項目があると思います。それだけ大事なコトということです。
自分は計画を作る時は、まずおおよその山域候補を「山と高原地図」で選びます。この時、例えば北アルプスと南アルプスとか、複数候補を選んでおくことも多いです。これは、北アと南アでは天候が異なるケースがあり、条件が良さそうな山域の方を選べるようにするためです。選んだら、ヤマレコの登山計画機能を使って、1日目と2日目のコース取りと休憩時間を入れていきます。コース取りの参考には、他のヤマレコユーザーで最近その山域に行かれた方の情報や写真も参考に、コースの状態や実際の難易度も見極めてポチポチ繋いでいきます。休憩時間は、現時点での自分の実力状態やコンディション、同行者の力量を加味して入れますが、登りにはだいたい1時間おきに10分程度を目安に、同行者によって20分や、少し大休憩取りそうな場所は30分を入れておきます。この時大事なのは、同行者の中で一番遅い人を基準に計画を立てる必要があるということです。ペースの遅い方は速い方に気を使うかもしれませんが、別れて行動するのは厳禁ですし、必ず一緒に行動できる計画を立てましょう。
計画を立てる上でのポイントとして、道中の景色の良いクライマックス部分を、1日目の午後に持ってくるのか、2日目の朝に持ってくるのかというのがあります。これを雨や風の可能性を読んでセットするのがポイントかなと思います。特に北アルプスなどの高山帯は、夏は朝から午前中にかけてが一番天候が安定しているケースが多いです。栂池から白馬大池、そこから稜線を歩き白馬岳に行くプランを立てた時、1日目の天候が不安定そうなのと、2日目の午前中が一番快晴が狙えそうだったので、土曜は白馬大池で1泊して、日曜は歩く距離が長くはなりますが稜線歩きをして白馬岳に行くようにしましたが、これが大当たりして一番気持ちの良い時間帯に稜線歩きを楽しめたというのがありました。南アルプスなどは夏は14時以降に雷が発生するケースも多いというのがセオリーとしてあるので、あまり午後に稜線を歩くプランを立てない方が良いと思います。また、行動も遅くとも15時くらいまでの計画として、不測の事態の時のバッファを持っておく必要があります。特に私はテント泊が中心のため、なるべく良い場所を確保するために午前中にテント場に着くプランにすることが多いです。

(4) 山の難易度について
ここで、山の難易度について触れておきたいと思います。初心者あるあるとして、山の難易度を標高の高さで判断することがよくあります。自分も始めたての頃はその考えがありました。標高も確かに難易度を測る1つの要素ではあるのですが、その考えは時には危険です。山のリスクとして、「道迷いしやすい」「滑落しやすい」「高山病になるリスク」「長丁場の体力が必要」「水場がない」「クライミングの技術が必要」などなどがあると思いますが、特にこの中でも間違いやすくかつ遭難の代表格なのが「道迷い」です。道迷いはある程度登山年数を重ねている方は、誰しも大なり小なり経験したことがあるくらい、陥りやすいリスクです。で、私の経験上、北アルプスなどより、奥秩父の低山の方が道迷いのリスクが高いです。実際プチ迷いをしたことがあるのは、奥秩父と八ヶ岳です。あとたしか濃いガスで視界が阻まれた飯豊山と甲斐駒ヶ岳かな。北アルプスなどはたいてい道が整備されているので、よほど天候悪化で視界が悪くなっていなければ迷うことはありません。奥秩父などは、水の枯れた沢や獣道、地図には無い作業道、台風などで木が覆いかぶさって道が消えていたり、林業研究用のリボンが紛らわしいなど、道を間違う要素が多かったりします。ですので、行く山が難しい山なのかどうなのかは、単純な標高だけでは無く、行程がどんな様子かをヤマレコなどでよく見て、予測することが大事です。


(5) 登山計画の使い方
登山計画が出来て、2日前に決行判断したら、そこで登山計画書を提出します。私は今は、「コンパス」というオンライン登山届サービスを使って事前提出しています。登山計画書は遭難の発生連絡があった際に、警察がその対象者がどこらへんで遭難したかの見当をつけるため、提出された計画書でコース取りと、小屋などの記録簿などから通過時間を予測してどこにいそうかを絞り込むためのものです。山の中で1人の人を見つけるのは、校庭でご飯粒を見つけるようなもの。校庭のどこかにある、なのか、登り棒か鉄棒のあたりにある可能性が高い、なのかで、発見率が大きく異なるのは簡単に想像がつくことでしょう。
計画通りに進んでいるかは、山と高原地図をコピーしたものと、ヤマレコの山行計画を印刷したものを防水ケースに入れて持つのと、最近はGARMINのInReach Miniを位置情報ログで使っているので、そのアプリにコース計画を入れて、腕時計(G-SHOCK)を見ながら遅れているとか、早めに動けているとかを逐次チェックするようにしています。あまりに遅れるようだと、時間によって撤退判断も考えなきゃいけなくなるので、長丁場の場合はこの判断ポイントも決めておいた方が良いでしょう。自分は幸いにもこれまで撤退というのは無いですが、向こうの山頂に行くのやめた、とか、手前のテント場で泊まることにした、とかはあります。
あと、グループで登山する際に、登山計画をメンバーのみんなが理解して、それぞれが今どこにいるかとか、この先どうなりそうかを考えるようにしないといけないと思います。ようは、計画を立てた人に任せきりになるのはマズイですということです。最悪、何かしらの理由で離れ離れになってしまったり、各自が持つ食事や装備なども、計画を理解していないとミスマッチを起こしたりします。また、体力の配分などや、急登への心構えなど、事前に知ってると知っていないとでは、遭難リスクにも影響してきます。山は自己責任とよく言われますが、山では最後に自分を守れるのは自分だけです。一般の人は、例え友人でも動けなくなった大人を担いで、安全に山道を登ったり下りたりはできません。それぞれの自覚は大事であることは忘れないようにしましょう。
(6) 軽量化と安全装備について
最近はファストハイクとか、ウルトラライトとか、とにかく装備を軽量化して早く行動できるようにして、天候変化とかする前に歩き抜けよう、という登山スタイルもあります。なんか靴とかザックとかもスマートでカッコ良かったり、ツェルト泊など少しストイックな感じもして、ちょっと憧れたりもしますよね。自分もレインウェアはネオシェルで軽量化が図られたものを使ったり、少し取り入れたりもしています。ただこれもリスクをちゃんと理解しておく必要はあって、例えばツェルト泊などは突然の豪雨の際にどうするかなど、最悪の時の対処は考えておく必要はあると思います。実際、中央アルプスの木曽駒ヶ岳のテント場で、夕方頃に天気急変で突然豪雨になりテント場じゅうに沢が流れるほどの状況になったのですが、普通の山岳テントであれば床面がバスタブ構造で水は入ってきませんが、ツェルト泊の方はありとあらゆるものが流されたりドロドロになってしまって、このまま泊まれないので今から下山する旨を下界の方?に連絡入れていました。木曽駒はロープウェーもあるので夕方からの下山はなんとかなるかもしれませんが、こういうリスクを理解した上で軽量化は考えた方が良いです。

快適装備と軽量化、安全装備と軽量化はそれぞれトレードオフの関係にありますが、安全装備に関しては迷うなら削るべきではないと考えます。軽さも体力確保の観点では安全に寄与する面もありますけどね。
軽量化で悩みがちなのが、どれだけ飲み水を持っていくか、というのがあります。水は1リッター持つとプラス1kgになるので、重さ的にバカにならない。ただ夏場などは水がなくなると、かなりフラフラになり危険。自分は、テント場などに水場がある前提で、春や秋はテント場に5時間程度以内で着く場合は1リッター程度。それ以上の長丁場になるところは気温にもよりますが1.5リッターまで入れる時もあり。夏場は2リッターをフルで入れますが。8時間くらいの長丁場の場合にプラス1リッターを持つケースもありました。真夏の雲ノ平から一気に下山した際は、3リッターを使い切ってしまいました。真夏の飯豊山でも同じくらい消費した記憶があります。それくらい夏は水を消費します。
(7) 山行時の注意点
登山のやり方説明したらキリが無いので、なるべく遭難して大変なことにならないよう、山行時の注意点だけ書いておきます。
まず、スマホについてです。スマホの登場で、GPS代わりになったり、困った時の連絡手段(これは携帯電話という意味だけど)、写真やビデオが撮れたり、Web等で天気の情報を見たりと、登山のスタイルがだいぶ変わったりしていると思います。なんですが、もはや地方でも携帯の電波が入らないところなんてないと思っていても、一歩山に入ると樹林帯や谷あいの登山道では、電波が入らないことも多々あります。入ってもすごい弱いとか。で、この状態でスマホをオンにしたままにしていると、スマホは自らの電波出力を上げて電波を捕まえ続けようとするため、あっというまに電池を消耗し、いざという時にバッテリー切れで使えないという事態になりかねません。いまどき紙の地図とコンパスなんて古い古いと思いたいところですが、自分は必ず紙の地図も持っていき、スマホはフライトモードにしておいて、場所確認の時だけ電波オンにしています。場所確認も紙の地図でやれや!と思うかもしれませんが、ぶっちゃけ周りがガスっている時などは、紙の地図よりスマホの方が位置を掴むのに確実です。
ちなみに山で言うガスとは、濃霧の状態を言うのですが、結構な割合で遭遇します。整備された登山道で明瞭であればガスでもそれほど問題はありませんが、広くて登山道も明瞭で無いところなどに出ると、かなり迷いの原因になります。ましてや方角が分からなくなると、戻る方向も分からなくなり結構危険。実際自分も雨とガスの飯豊山の山頂から御西方面に向かう際、あそこ山頂をぐるりと回る形で下りて広い稜線から向かうのですが、一時完全に道と方向を失って、目印のリボンを目視できるまで動けなかった時がありました。地図があろうが目印が全く見えなくなるし、スマホも方角は少し歩き出さないと分からないので、結構注意が必要です。

あと、防寒についてですが、真夏でも高山では夜は相当冷えるケースもあります。私は基本的に必ずダウンジャケットは持っていくようにしています。春や秋は夜、氷点下になるケースもあるので、最近はハクキンカイロを持って行き、シュラフの中に入れておくようにしています。以前は夜凍える時もあったのですが、カイロを導入してからは寒くて何度も起きるという経験は無くなりました。逆に行動中は、春や秋でもすぐ暑くなってしまうことがあるので、脱ぎ着し易いソフトシェルと、速乾性のTシャツ、メリノウールの長袖ベースレイヤーが私の主流です。
なんかとめどなくなっちゃいましたが、今年はなかなか登山にいけない中で、あらためて振り返りながら書いてみました。参考になるかは分かりませんが、死んじゃったら元も子も無いので、事故なく楽しく山歩き続けられるよう、真剣に考えるところは真剣に考えながら、山行計画を考えましょう。ということで。