8月末に遅めの夏休みを取って、東北のアルプスとも呼ばれる飯豊山をトレッキングしてきました。テント泊と小屋泊で3泊4日の日程です。
7月は土日もお仕事、8月もお盆は仕事だったので、約2ヶ月ぶりの山歩き。
年初の計画では、北アルプスの表銀座縦走を考えていましたが、たまたま見たBSプレミアムの百名山特集番組で達成感の味わえる山ランキングとして、屋久島の宮之浦岳、穂高岳を抑え1位となっていたのがこの飯豊山。正直、これまで飯豊山の事は知りませんでしたが、東北の山にも行ってみたいと思っていたので、日数の取れる夏休みでのプランを立てた次第です。
25日早朝。一番負担が少ないのでは?と思った大日杉小屋登山口からの登り。久しぶりに3泊分の食料、新調して重くなった三脚や望遠レンズを積んだ23kg超えのザックで、「ザンゲ坂」と呼ばれるいきなりのクサリ場の急登、その後もさらに延々と続く急登にペースも上がらず、コースタイムを下回り最初のピークである地蔵岳に到着。曇りの天気でしたが汗ダラダラ。地蔵岳から先は気持ちの良い稜線歩きが楽しめると思いきや、樹林帯の登り返しの繰り返しで、太ももが張ってきてしまいました。しかも途中で休むにも、ここの区間はやたらヘビを見かけることが多く、よくよく確認してからでないとどっかり座り込むのも不安。
本当は飯豊山頂に近い本山小屋まで行く計画だったのが、途中から「手前の切合小屋で泊まっちゃえ」という悪魔の囁きが聞こえ出し、さほど悩まずにアッサリ悪魔と契約(笑)。ハイマツ帯に出てから沢に下り、顔を洗ってサッパリしてもうちょっと頑張れるかなとも思いましたが、切合小屋に着いたところで目の前にそそり立つ草履塚を見て戦意喪失。切合小屋のテント場で一泊することに。小屋で冷たいビールを買い、早い時間からの乾杯。テント場は最初は自分一人だけでしたが、後から1組だけ来て隣に張っていました。
ちなみに飯豊連峰は基本的に幕営は禁止です。が、小屋の周辺に限り500円でOKということになっています。このあたりは色んな事情もあるようです。
翌26日の朝。切合小屋を出発するも雨が降り出し、すぐにレインウェアを着込みます。ガスで景色は全く望めませんでしたが、お花畑が多く色んな高山植物が見れました。雨に濡れた花は晴れている時よりも艶やかな感じがして、途中からは結構雨も楽しんでしまいました。
飯豊山はかつての山岳信仰の山でもあり、数多くの修験者が訪れた場所です。そのため、ここらへんからその歴史を感じさせる場所がいくつも出てきます。
切合小屋から最初のピークにあたる草履塚は、かつての修験者たちが飯豊本社を前にここで新しい草鞋に履き替えたことから、その草鞋が積み重なって塚になったと言われています。そして、草履塚を越えしばらく進むと、姥権現という場所に着きます。
ここには地蔵のような形の石に頭巾がかぶせてあります。飯豊山はかつて成人儀礼の山でもあり、長尾の男は15歳になるまでに登頂しないと一人前と認めてもらえなかったことから、ある修験者のお母さんが心配で女人禁制であるにも関わらず進んでしまったことから、途中休んだところで石にされてしまったという伝説が残る場所です。実際に見た感じもなかなか悲しい思いになる石です。
姥権現からすぐ、御秘所と呼ばれる岩陵帯が登場します。飯豊山は全体的に危険な箇所はないのですが、ここだけ両側が切り落ちた岩を進みます。コースとしてはクサリもある上段をつたって行くのですが、かつてはこの岩の中段を進むことで修験道を極める意味合いもあったようです。下段は容易に見えるが無間地獄に通じる口無し穴があるとの言い伝えがあり、神隠しにあうと信じられていたことから、御秘所という名前が付いたとのこと。雨が降っていたこともあり慎重に進みましたが、斜めの岩の形状に平衡感覚が狂いやすく、ザックが東側の谷に引っ張られる感覚になるので、特に下りの時が怖く感じました。
御秘所を越えて進んでいくと、御前坂という広い場所に到達します。そしてここから本山に向け最後の登り。これがまた地味に身体に堪えます。雨も強くなってきて景色も無い中でのひたすら登りでしたが、途中で疲れて雨に打たれていると、「雨も味があっていいじゃない」と、なんだか達観した気持ちにもなりました。
そんなこんなで本山小屋に到着。身体も冷えてきたので一休み。のはずが、「今日はヒマだー」という管理人さんと話し込んでしまい、気がつけばお昼前の時間に、「オレ昼飯に天ぷら食うけど、アンタも天ぷら食べる?」と言われ、「いいんですか?頂きま~す」とまさかの天ぷらメシを頂いてしまいました。ま、申し訳ないんでバッジ買いましたけどね(笑)。
結局3時間半も居座っていたのに雨が止まないので、「今日はあきらめて泊まればお酒飲めるのにな~」と微妙に引き止めようとする管理人さんに、「明日泊まりに来ますから」と伝えて御西に向け出発。飯豊山頂は雨と風がひどいので早々に通過。御西への道で迷って引き返して来た方もいたので、ガスで先が見難い中、慎重にリボンやケルンを確認しながら進みました。本山直下は確かに稜線が広々としてあちこちが道に見える場所で、かつ下る際に一回まわり込む感じになるので方向感覚が狂いやすいので、ガスの時は位置確認をした方が良いですね。
御西への稜線歩きはアップダウンが比較的少ない緩やかな道で、お花畑も広がっています。残念ながら天気は悪いままでしたが、それでも途中から雨が止み少しだけガスが晴れ、雪田のある風景を見れました。晴れていれば気持ちの良い稜線歩きになるのでしょうね。
御西小屋に着きここで宿泊となりますが、これから晴れる方に賭け、テント泊を選択。なのにテント設営直後に再度雨に降られガッカリ。「夕陽は見れないな~」と思ってあきらめて17時過ぎに夕食にしようと、フリーズドライのライスにお湯を入れた途端、パァーっと周りが明るくなりガスが晴れ夕陽が登場。大日岳も北股岳も姿を現し、日が沈むまで写真を撮りまくり。小屋泊の人たちも外に出てきて、皆「すごいね~!、良かったね~!」の連発。本当に急に素晴らしい景色をお見せになる飯豊連峰。ツンデレっぷりがハンパ無いです。おかげでこの日は冷たいふやけたライスの夕食になりました…
翌27日は朝からガスまみれ。一縷の望みをかけ大日岳に向かいましたが、途中一瞬だけガスが晴れたものの、慌ててカメラを構えたらレンズの内側が曇ってしまって撮れず。。。飯豊連峰最高峰の大日岳山頂に到達して、30分くらいプラプラしながらねばっていてもガスって展望は無し。とぼとぼと御西小屋に戻りテントを撤収しようとしたら強い雨が降ってくる始末。一瞬止んだのを見計らってテント撤収、御西岳を横目に本山小屋に向かいましたが、本山に近づくにつれ再び風と雨が強くなり、飯豊山頂のあたりで身体が持っていかれるほどの強風。これではテントを張るのも危ないので本山小屋で小屋泊にしました。この日、本山小屋に泊まったのは12名。実は小屋泊は初めてだったのですが、周りの人たちと会話を楽しみ、その後管理人部屋で5人で飲みながら、興味深い話を聞かせて頂きました。皆さん山の経験豊富な方々ばかりでしたね。私など若輩者で頭の下がる思いですが、気さくに話して頂いて楽しかったです。
そして最終日の28日。夜中聞こえていた風と雨の音に半ばあきらめかけていましたが、朝、外に出てみると雲海が!
雲が明るくなる反対側では、飯豊山から御西、大日岳へと続く稜線が見え、空もどんどん青くなり、待望の景色が現れ始めました。せっかく晴れたので二日酔い覚ましがてら再度山頂に向かい、美しいダイグラ尾根や御西岳との間の滝雲、そしてこれまで花が閉じて見つけられなかったイイデリンドウも、半開き状態ではありましたが発見。最後の最後に飯豊山に受け入れてもらえたような気がして、自然にホロリと涙が出てしまいました。
名残惜しくも、その後幾度も振り返りながら下山。草履塚の手前でふと登山道から20mほど離れたところに熊がいることに気付きましたが、こちらに気付いていないのか、地面をモソモソし続けたまま。そっと通り過ぎても後の登山客の時に登山道まで出てきちゃってたら危ないし、急に音を立ててパニックにさせてもいけないし、とりあえずスマホで写真を撮っても気付いてくれないので、一眼レフに望遠レンズを付けて構え、横に少し位置を変えたところで気付いたようで、ムクッと頭を上げこちらを確認した後、ササッと逃げていきました。なお、カメラでの写真は撮れませんでした。切合小屋からボッカで戻って来た管理人に熊を見たことを話したら、「いいなあ、オレまだ会ったことないよ~」と言われてしまいました。ラ、ラッキーだったってことかな?(※注:本山小屋の管理人は今年から赴任された方です)
下りの道中もなかなか難儀でしたが、下山後は小野川温泉の予約していた宿に泊まり、かけ流し温泉と米沢牛ステーキを堪能。田んぼアートを見て翌日帰路につきました。
飯豊山は山深くアプローチに時間がかかり、なかなかタフな山でしたが、8月末でもいろんな花が咲いていて、雨の中でもトレッキングを楽しめましたし、御西小屋で美しい夕景と、本山小屋で素晴らしい朝日と飯豊連峰の景色を拝むことができました。
4日間いたことで、結果的に飯豊山のいろんな魅力を堪能できたと思います。山の神様から「ゆっくり山歩きを楽しみなさい」と言われているような気がして、飯豊山の懐の深さを感じましたね。またいつか、東北の山々を訪れたいと思います。
今回ネタ的にドキュメンタリー編ムービーも作ってみました。長いのでお時間ある方だけどうぞ…